年末最後のACID が
リスナーが選ぶベスト10 なら、年明け最初の放送は、恒例のACID が選ぶベスト10 なのだ。2007年で、実に15年を迎える長寿番組となった ACID 映画館。15年の倦怠の夫婦関係にも似たマンネリ感?を打破すべく、今回の ACID が選ぶベスト10 は、本来のベスト10の他に、それぞれの順位の作品にまつわるテーマを設け、選考に漏れた他の作品も合わせて発表(裏ベスト10)するという趣向を凝らしたものとなった。
平野先生が選ぶ2006年ベスト10&ワーストは・・・
10位
スーパーマン リターンズ(未見)・・・「 いまの若い客は古い映画を観てないで。 」 と同じソフトで新しいものを作り直して、もう1回おいしい商売をしましょうという安易なリメイクブームに則ったアイデアのなさ、やる気のなさ、意識の低さを嘆き、鉄槌を下してきたACID映画館。そんななかで、オールドファンの誰もが納得できるリメイクに仕上がっていたというところが大きい。
クリストファー・リーヴに代わるブランドン・ラウスという見事な主役を見つけてきたという素晴らしさ、スーパーマンのテーマ音楽を大事にした、リターンズといいながら、1作目のリメイクでありバージョンアップしただけなんだけれども、それらを大事にしたブライアン・シンガー監督のファン心に素晴らしい拍手を送りたい。
「
復活 」というテーマを付けた10位の選考の裏作品として、『 アンジェラ 』(未見)・・・リュック・ベッソン監督に対しても、長らく小さいながらも鉄槌を喰らわしてきたACID映画館。この 『 アンジェラ 』 において、リュック・ベッソンは見事な復活を果たしたんじゃないかという気がしている。商売っ気に走っていたリュック・ベッソンが、かつての映画の勢いはないとはいえ、「 いま1番描きたいことを描くねん! 」 的な要素を伝えようとしたことを評価した。
09位
スネークフライト・・・アホな映画。文句なく面白かった。「
無茶苦茶 」 というテーマでみると2006年は無茶苦茶な映画がいっぱいあった。裏作品として挙げるなら、『 ファイナルデッドコースター 』 『 ワイルドスピード3 』(未見) 過激さで言うと 『 ソウ3 』(未見) 『 テキサスチェーンソー ビギニング 』(未見)。 バカ映画ではないんだけれども 『 サイレントヒル 』 という映画もあった。すごく雰囲気を持った、ゴシックホラーという空気を持ちつつ、新しい感覚を魅せた。これも非常に良かった作品だった。「 無茶苦茶 」 というカテゴリーのなかでどれがいいか迷った。
『 ファイナルデッドコースター 』 と 『 スネーク・フライト 』 が最後まで残った。『 サイレントヒル 』 は映像の感覚は新しいが、映画途中でものすごい気分悪いシーンが1シーンあって早い段階で消えた。『 ファイナルデッドコースター 』 はやっぱり途中でちょっと気分が悪くなるぐらいに、人が死にすぎた部分があった。いままでのシリーズ同様、人がどんどん不幸になっていくというおなじみの面白さ?は相変わらずだったが、それがちょっと行き過ぎて笑えなくなってしまったというところが心残りとしてあった。でも、『 スネーク・フライト 』 に関しては、これほど人の命を軽んじている映画もないだろうというぐらいに同じように人が死んでいくのに最後まで笑わせてくれた。
08位
サムサッカー(未見)・・・人にとっての 「
癒し 」 という行為がそれぞれ違うように、映画も 「面白かった!」 「感動した!」 「笑った!」 と評価できる映画もあれば、言葉にできないけれど、とにかくなんかわからないけれどもものすごい良かったなという映画もある。それらを挙げれば、『 サムサッカー 』 『 かもめ食堂 』 『 時をかける少女 』(未見) 『 ハチミツとクローバー 』(未見) が頭を過ぎった。
『 時をかける少女 』 に関しては、映画としては面白い。わかりやすい感動やコミカルさというよりも透明感溢れるふわふわした映画的魅力があった。『 かもめ食堂 』 に関してもなんてことのない話なのに、なぜこんなに惹き付けられるのだろうというのがあった。『 ハチミツとクローバー 』 も美大の若者のくっついたり離れたりといった・・・実体験としてはないけれども僕たちもこんな世界に行ってみたかったなーと思わせる部分があったりする。
ひとつの評価でくくれない映画があるとすれば、この8位の作品ではないかと思う。
『 サムサッカー 』 の素晴らしいところは、サムサッカー(親指しゃぶり)の気の弱い少年が、キアヌ・リーヴス演じる歯科医に相談したりして、あるひとつの突破口を見つける。他人から見たらアホな突破口かもしれないけれども、自分の力でその突破口を見つけた瞬間、自己暗示にかかったかのように、どんどんと元気になっていく。行ってしまう、行き過ぎてしまう、そして行き過ぎてしまったときにまた自分で失敗したなと気付く・・・。人間の成長のあり方として、1番等身大な感覚をこの映画に見たような気がした。見事に描かれていて、観ている私たちも元気になった。アメリカ映画なのに、ヨーロッパ映画っぽい。
07位
スピリット(未見)・・・天下一武道会の映画。「
闘魂 」 をテーマにして、2006年の映画をみると、『 スピリット 』 の他に 『 トム・ヤム・クン! 』 があった。震えるようなシーンもいっぱいあったけれども、前作 『 マッハ!!!!!!!! 』 ほどの荒削りなものを見失ってしまった部分があるかな?とひっかかったところがある。
それに比べると、『 スピリット 』 は、冒頭部分でネタバレではないけれども、それを描いてしまったら、あとなにを描くのん?ということを敢えて最初にドン!と見せてくる。そのあとに見せるドラマ部分が、ジェット・リーだから期待できない、薄っぺらいドラマで、ただ単に戦うだけかいー!?と思っていたら、ところがところが、ジェット・リー=リー・リン・チェイ(映画 『 少林寺 』 の人)という人が己の人生を投影したかのような物語に仕上がっていく。
強いが故にみんなからチヤホヤされ、その実力に自惚れたために人々から嫌われ離れていったということをいま改めて反省し、原点に立ち返り 「 武道 」 とは何かを考えようとする主人公に自分を重ね合わせた。この素晴らしさを忘れるわけにはいかないという 「 闘魂 」 を奮い立たせてくれたという意味では、『 トム・ヤム・クン! 』 以上に素晴らしかった!
観たら大したことないと思います、映画として(笑) リー・リン・チェイを 『 少林寺 』 の頃からずっと見続けてきた者としては、襟元を正すような背筋を伸ばすような姿勢で作った映画じゃないのかな?ということで、第7位に 『 スピリット 』 。
06位
SAYURI(未見)・・・裏作品としては、『 父親たちの星条旗 』(未見) と 『 硫黄島からの手紙 』 を挙げるが、6位に選んだのは、『 SAYURI 』 。クリント・イーストウッドの映画は良かったし、リスナーの選ぶベスト10にそれらの作品が入ったことで敢えて自分が選ぶベスト10からは外したところがある。
切に訴えたいのは、『 硫黄島からの手紙 』 があったのは、『 SAYURI 』 があったからじゃないだろうか? 『 SAYURI 』 という映画が下地にあって・・・僕たちは驚いた、よくぞ、日本のことを知り尽くした映画を作ったことを。単なる芸者ムービーかと思っていたら、アメリカ人にこんなことわかるの?という置屋のしきたりから、女同士の争いからなにから、僕らが納得するような日本の描写というものを映画で見せてくれた。ヘンテコリンな日本はなかった。
そーいう下地があったことを、『 硫黄島からの手紙 』 が盛り上がっている昨今、『 SAYURI 』 の驚きをもうみんな忘れてしまっている・・・。その反抗の意味もあって、6位に入れているというのもある。
真実の記録として、『 硫黄島からの手紙 』 が感動させてくれるというのは、言うなれば当たり前な部分。フィクション=作り込まれた世界のなかで見せる 『 SAYURI 』 の女の憎しみだとか激闘、意地の張り合いとかに感動させられた。精神性のぶつかり合いを見せながら、激動の時代の女性の生き様を描こうとしたというところに、そして日本を理解しようとしたというところに、そして、プロデュース:スティーブン・スピルバーグという共通項を含めて、『 SAYURI 』 の存在があったが故に、クリント・イーストウッドの映画は生まれたということを確信している。
ここでのテーマを 「
和 」 とした。主役が日本人だともっと良かったのになと思う。
05位
M:i:III(未見)・・・2回観に行っても面白かった。改めて観てみても、やっぱりバチカンに乗り込んでいくところは、スーパーマンじゃないけれどもスパイ大作戦のテレビシリーズの要素というものを J.J.エイブラムス監督はよくわかっているという嬉しさ!そこはものすごい評価に値するところ。
怒りに駆られてトム・クルーズがバチカンで仕掛けて、フィリップ・シーモア・ホフマンを捉えた後に、もっと強大な敵の力が加わって、マイアミのセブンマイルズブリッジみたいなところで強奪されていくというあそこまでの件は痺れた!こんな面白い映画は何年かに1本の映画だ!・・・上海に行ってから駄目でしたけど(笑)
そんな面白さもあって、忘れられないということで第5位。テーマを 「
興奮 」 とした。
「 興奮 」 とはちょっと違うかもしれないけれども、『 ミュンヘン 』 という映画があった。スピルバーグが 『 スパイ大作戦 』 をやりたかったんじゃないのかな?と思わせる作品。ただ、スピルバーグの年齢とキャリアから、いまさらそれをやるわけにもいかないし、トム・クルーズとやったところで何の新鮮味もない。大義名分と自分なりに 「 スパイ大作戦 」 をやろうとしたのが、『 ミュンヘン 』 だったんじゃないだろうか?
政治的なテーマ、人種、宗教・・・深刻なテーマを描いていた部分でシリアスなドラマとして観たのだけれども、スピルバーグが自身、後何年生きられて後何作映画を撮れるだろう?と考えたときに 戦争映画みたいなのを撮ってみたいなで 『 プライベート・ライアン 』 。ちょっとスパイ大作戦みたいな映画も撮ってみたいな、で撮ったのが 『 ミュンヘン 』 だったのではないだろうか。
04位
クラッシュ・・・振り返れば細かい部分は忘れていると思います。しかし、『 クラッシュ 』 だけは、いろいろな登場人物やエピソードなどが走馬燈のように甦ってくる。「 魔法のマント 」のエピソードは秀逸だったし、マット・ディロンのエピソードも秀逸だった・・・。観光で行っただけでは見ることのない、わからないLAの根深いもの。もしも、日本人がLAに住んでしまえば、いっぱいそーいった差別的なことを受けたりするんだろうなということを想像しながら観ると、アメリカという国がいま抱えている問題というのが、この映画1本で非常に巧く描かれていたのかなと思う。
選考テーマを 「
巧 」 とした。アカデミー賞を争った 『 ブロークバック・マウンテン 』(未見) も 「 巧 」 の技に近づいたかなという巧さを感じたが、この2本を比べると作品としては地味だし有り体の群像劇なんだけれども、『 クラッシュ 』 に投票してしまった。
結局なんだったのか?明確な答えを出さないままに終わっていった部分もたくさんあったし、全部が丸く収まらず “チャンチャン♪” とはいかずに、映画の終わり方に尻切れのような感じもしたが、それが人間の世の中であり、人間の無常というものではないかな?と感じる。2006年、『 クラッシュ 』 の脚本も書いたポール・ハギスという人が確かにキーパーソンだった。
03位
虹の女神(未見)・・・Jupiter(ジュピター)をベースにして作られた 『 虹の女神 』 劇中の 「 エンド・オブ・ザ・ワールド 」 という学生映画・・・その作り方、カチャカチャカチャカチャと音を立てて観るような8mmのそのざらついたフィルムが、『 虹の女神 』 という映画のなかで如何に重要なポジションを占めているかということを考えれば、この曲(Jupiter)をかけざるを得ないというぐらいに惚れ込んでいる。
第3位の選考テーマを 「
技 」 とした。単に岩井俊二映画を好きというような自分の気持ちだけの問題じゃなしに、この映画全体が持っている演技を越えた演技、リアリティを越えたリアリティを俳優がみんなやっている・・・そー持っていった監督やスタッフの空気作りの巧さ。その巧さに引っ張られていくと同時に、脚本が見事に構成されているから・・・みんなが学生映画を撮っていく現場の様子をチラッチラッと見せておいて、それがどー繋がっていくのかなーと思ったら、この 「 エンド・オブ・ザ・ワールド 」 という劇中劇、劇中映画でそれがビタッと繋がっていくという気持ちのいい、1番好きなパターン!ネタを振っていたやつがビタッと帳尻が合う、なるほど!と思わせる映画に、ホントに弱い。ここに、どんな映画にも代え難い巧さがあった。巧さにおける順位をつけるとしたら、『 虹の女神 』 がベスト1。
02位
UNITED93・・・事実を積み重ねる、現実に遭遇した人たちの証言、遺族の証言を元にしている、繋ぎ合わせるからリアルなのは当たり前。その日、その時に管制塔にいた方を俳優として出しているというような生々しさはあるんだけれども、あの、たった1日のすべての人の心の動きと、心の動きだけじゃなしに、どれだけ信じられないことが起きたかというみんなの驚きというかショック、心の衝撃というものを映像で見せるってどーいうこと!?
9.11にリアルタイムでその事件を目撃した私達もなにが起こったのかすぐには理解できない、ドラマの1シーンかなにかみたいなそーいう驚きがちゃんと映像に現されていた。事態に直面した後の人間はすぐには動けない。少しの間をおいて迅速に対応するんだけれども、その直後の人間っていうのは、あんなにも無力なのか・・・こんな感覚を映画でよく見せよったなーという 「 技 」 「 巧 」 を越えた真実の 「
真 」 をテーマとした。
映画の後半部分、UNITED93 の機内の部分のドラマは、あくまでも遺族の証言であり、いまこーいう風に言われているというものを描くに過ぎないわけで、その部分の真偽についてはコメントしずらいところもあるが、だけどとにかくこの映画のWTCに突っ込むことを周りで見ていたひとの状況を伝えるという主眼に関しては痺れるものがあった。
ことしは、もう1本文字通り 『 ワールドトレードセンター 』(未見) という映画があった。これも素晴らしかったと思う。オリバー・ストーンらしからぬ演出に心震えたし、溢れ出てくるものがいっぱいあった。感動はした。だけど、だけど、『 UNITED93 』 が想像を絶する描き方をした。『 ワールドトレードセンター 』 は感動以外にないし、その感動は読める。想像できるという部分と、『 UNITED93 』 の描いているものは、人間の想像力が如何に小さいかということを描いていると思う。だから、自分が想像できないことに対して人間は動けなくなる。それが実によく描かれていた。
01位
嫌われ松子の一生・・・リスナーが選ぶベスト10の第1位とかぶるとはいえ、これは外せなかった。この映画には、ベスト10~2まで挙げた9作品で語ってきたことがちょっとずついろいろと詰まっている。感動の幕の内弁当みたいなと言ってもいいかもしれないし、映画の良さの幕の内弁当という言い方もあるかもしれない。これほどまでにバランスよく、ちょっと跳んでるところもあればベタなところもあり、悲しいところもあれば楽しいところもある、重いところもあれば軽いところもある・・・みたいなこの独特の感覚は2006年忘れられない。
今年の日本映画はいい作品が多いので、今年の映画賞は可哀想かもしれない。中谷美紀が主演女優賞を獲れない部分もたくさんあるかもしれない。これから発表になる日本アカデミー賞かなにかわからないけれども、すごい楽しみ。いろいろなしがらみを考慮すると、今度の日本アカデミーは波乱含みな展開・・・はじめて日本アカデミー賞を見ようかなという気にさせる(笑)
ワースト
プロミス タイフーン・・・2本に迷った。両方チャン・ドンゴン作品ということで、W受賞。
むっちゃんが選ぶ2006年ベスト3&ワーストは・・・
03位
スネーク・フライト・・・文句なく楽しかった。
02位
ヒストリー・オブ・バイオレンス・・・デヴィット・クローネンバーグの新作。クローネンバーグが久しぶりに痛快な映画を作った、この世界が大好き。面白かった。
01位
Mr.&Mrs. スミス・・・文句なくこの映画。ブラピの映画が今年はこれしかなかった(笑) 今年は 『
バベル 』 『 オーシャンズ13 』 などが来るので楽しみ。内容はどーあれ力業のスターがハリウッドには必要。ブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリーが出ているのであれば観に行こうかと思うようなスターがハリウッドには必要だなとこの映画を観てすごく思った。娯楽大作としても面白かった。
ワースト
立喰師列伝・・・2006年唯一寝た映画。唯一!!!
伊藤D が選ぶ2006年ベスト3&ワーストは・・・
03位
ビッグ・スィンドル!・・・今年は 『 力道山 』 を見逃したのと10月以降あまり映画を観られなかったことを大後悔。『
五月の恋 』 『 ブレーキング・ニュース 』 『 うつせみ 』 『
僕が9才だったころ 』 などと迷いましたが、過去に似たような映画もあるが、テンポのいい展開に引き込まれます。
02位
スーパーマン リターンズ・・・僕にとっては 『 スターウォーズ 』 より 『 スーパーマン 』 。オープニングでもう鳥肌。突っ込みどころ満載でしたが、もうオールOK!こんな時代だからこそストレートな勧善懲悪の映画が心地よい。
01位
トンマッコルへようこそ・・・ファンタジーなのかなんなのか不思議な魅力で包み込まれた。美しく柔らかな映像と静かながら凛と筋の通った想いが印象的で、改めて韓国映画のパワーと懐の広さを感じた作品。
ワースト
君に捧げる初恋・・・大好きなソン・イェジンちゃんとチャ・テヒョンの黄金の組み合わせ。いわゆる王道の韓流コメディなのだが、残念ながら全く入り込めない。クスッとも笑えないし、ホロリともこなかった。ただ、ソン・イェジンちゃんの水着姿は必見!
注:この記事は、2006年1月7日の
アシッド映画館( ABC 1008kHz ) の放送内容を
勝手に要約して書き起こしたものです。