トラと漂流した227日というサブタイトルから、トム・ハンクスが主演した、飛行機事故かなにかでたった1人で無人島に流れつく 『 キャスト・アウェイ 』 的な退屈な映画かと思っていたが、ネットかなにかで、この映画のネタバレ部分を聞いてしまった。だが、あー、そーいう映画なのか・・・っと逆に観たくなった。
父の友人でもある大叔父のママジと知り合ったカナダ人の小説家は、ママジのすすめで主人公パイに会いに来るところから映画は始まる。ママジは、パイなら小説のネタになるような話を持っているということで寄越したようだ。なので、これからパイの口から語られる冒険談を、観客であるわたしも、このカナダ人小説家と同様にまっさらな状態から聞くことになるのだ。こーいう導入部は結構好き。
話は、パイの少年時代から始まる。パイの本名は、ママジの影響でフランスにある飲めるぐらい水の澄んでいるプールにちなんで、ピシリと父から名付けられたが、彼が通うインドの学校では、ピシリは 「 立ち小便 」 の意味。クラスメートから散々に誂われるが、彼はそれを愛称パイ=Π、円周率を引っ張り出して、クラスメートからの自分への扱いをひっくり返す。パイは頭のいい少年のようだ。
パイは、ヒンドゥー教を崇拝していたが、キリストに出会い、キリスト教も崇拝する。その後、ムスクに行っていたシーンもあるので、イスラム教にもかぶれていた。彼は、多神教徒だった。多分、この映画はそーいったパイの信仰的な背景が魅せる部分っていうのが、物語のなかに多分にあると思われる。彼が恋したアーナンディが踊りの中で魅せる手を包んだ蓮の花の形・・・。森の中に隠された蓮の花・・・パイは、映画の前半部分で、これを疑問視するが、後半でその蓮の花の形を森で見つける。また、彼が辿り着く浮島は遠くから見ると、人が寝ているような形になっている。この映画を観て面白いと思った人は、これらを検索するといい。
動物園を経営していたパイ家族は、その土地を市に返却しないとならない事態になる。パイの父親は、それら動物をアメリカに売って、カナダに移住する事を決意する。動物たちと貨物船に乗って航海の旅に出るが、マリアナ海溝上で嵐に遭遇し、貨物船はあっという間に沈没する。
パイは幸いにも救命ボートに乗ることができたが、真夜中の出来事だったので、家族は寝入っていた為、還らぬ人となってしまった。沈んでいく貨物船から飛び出してきたのは、パイが飼っていた動物達だった。シマウマが救命ボートに飛び移り、オランウータンを荒れ狂う波の間から救出し、ハイエナまでも乗ってきた。テントに覆われたボートの前部分には、リチャード・パーカーと名付けられたトラまでも潜んでいたのだった。
嵐による遭難事故が過ぎ去った後、やはり、そのボート上で弱肉強食の争いが待っていた。パイは、救命ボートの床の敷板やオールを海に浮かべ、イカダを作り、救命ボートとロープで結び、トラから逃れる事に成功する。それから彼とトラは、227日間漂流することになる。
救出されたパイが入院している病院に、2人の日本の保険調査員が、今回の遭難事故についての聞き取りにやってくる。2人の日本人は、パイが語る、俄には信じられないような物語に唖然とする。調査員は 「 遥々日本からやって来て、貨物船遭難の事故原因がわからないというのは困るんだ。そんな空想めいたもんじゃない、上に報告できる話が欲しいんだ。 」 とパイに促す。パイは 「 忘れないで欲しい。僕も今回の事故で家族を亡くしているんだ・・・。 」 と目線を頭上に向け、想いを巡らすかのように辿々しい口調で、もう1つの物語を語り始めた。
ボンヤリとネタバレを聞きつつも、85点。この不思議な遭難事故の物語に、前のめりになって惹き付けられた。