ABCラジオ番組 『 ACID 映画館 』 、年末恒例の「 リスナーが選ぶ今年のベスト10 」が発表になった。対象作品は、'07年12月公開作品(12/1公開)~'08年11月公開作品(11/29公開)までに上映された映画作品。リスナーが、その年のベスト5とワーストを1本選んで投票するもの。順位によってポイントをふりわけるF1ランキング方式(同点順位の場合は、1位に投票した数の多い方を上位とする)を採用・・・と例年となんら変わらぬルール・・・と、ここまで1年前の記事からコピー&ペースト♪
オープニングは、その年を代表する1曲で始まる年末恒例の企画。今年選ばれたのは、インディ・ジョーンズの復活を祝して、壮大なレイダース・マーチが選ばれた。興業成績的にも、秋公開のレッドクリフに抜かれたというのも話題になったが、少なくとも2008年の幕開けは、今年遂に復活するということの喜び。その他にもランボーでスタローンが復活したりとか、所謂オールドパワーがなにか復活を果たす1年だったんではないかな?というところで、この曲を選んだ。
リスナーからの投票によりエントリーされた作品は、234作品と昨年並みとなった。ACID 的には2008年は、「 チェンジ 」 の年だった。オールドパワーが頑張ったということもある意味チェンジの年かもしれない。そして、映画業界の再編。組織、人の数、人繰り含めた映画業界再編の波が東京の中央だけでなく、ローカルのエリアまで拡がってきている。所謂リストラまで含めた業界再編が始まっている。これは2009年にも繋がっていきそう。
振り返れば、絶好調を誇った東宝が一人勝ちをした。洋画・邦画を含めて東宝の一人勝ちの状態が続いた。洋画人気がどんどん衰えて、邦画人気がどんどん上がっていくのは、この2008年も引き続き顕著に現れた傾向だった。公開する本数的には洋画が減っている訳ではない(邦画は増えた)けれども、ちょっとやっては人知れず終わっていくケースが非情に多い。邦画人気が止まるところを知らず勢力を伸ばし続けた2008年だった。
そのなかでリスナーの選ぶベスト10になにが入ってくるのか?ハッキリ言います。ACID 映画館の順位は、他のベスト10とは明らかに異なります。王道は行ってませんから!チェンジの年を迎えた2008年、どんな順位になったのか!?
第10位 崖の上のポニョ 100pts (未見) ・・・ 不思議なもので、日本映画で記録的な大ヒットを飛ばしたけれど、上位に来ないというのも ACID 映画館の1つの傾向。『 崖の上のポニョ 』 は、ほとんど歌だけが一人歩きして、宴会ソングでおっさんが合唱し、キャバクラでおねーちゃんの太股を触りながらポニョ~♪ポニョ~♪っと、それだけで一人歩きしたような・・・(笑)
2007年から注目していた。遂に宮崎駿が動いた。しかも、『 となりのトトロ 』 を思わせる原点回帰ではないか。つまりは、もう賞も取ってある意味肩の荷が降りた。そーいう意味で等身大の宮崎駿に戻って、原点に帰るんじゃないか?つまりは、『 となりのトトロ 』 を期待している客層を巻き込み、最近の客の入り方を考えたら、『 千と千尋と神隠し 』 を抜くんじゃないかという期待までされた作品だった。
蓋をあけると、やはり近年の宮崎駿のへそ曲がり感というか、そこがちょっと評価をわけたかな?という気はする。「 トトロはたくさんの方に観ていただいている。トトロはもう作らんでええんですわ。 」 とインタビューで応えたそこにすべての真実があったのでは?と思う。トトロらしく思わせておいて、実は違うよという如何にもな、宮崎駿らしさ。それも含めて作家性がきちっと出た作品だったかなと思う。
第09位 ミスト 138pts ・・・ 『 ミスト 』 がACID のベスト10に入ってきているという快挙といってもいいのでは?公開規模と話題性から鑑みても・・・。
あがけばあがくほど、ミストの深みにはまる・・・描いていることは、タコみたいなものが出てきて、わぁーと逃げまどうという単なるそーいうだけのことなんだけれども、なにかしらそこに人生の深みみたいなものすら感じさせる映画になったということか・・・。キング原作の映画化、ショーシャンクがいい、ミザリーがいいということであるけれども、もしかしたら、ミストもその中の1本に挙げられるかなという気がする。
まさか、ミストがここに入ってくるとは!?意外な結果。
第08位 バンテージ・ポイント 190pts ・・・ 大ヒットしたかどーかというと、そーではない。所謂知る人が知る名作みたいな感じのイメージが一般的にはある。それ故にこれを推す人のメッセージも熱いし、1位とする票数も多かった。大傑作だと思う。
一昔前ならケビン・コスナーとかの大スターが出てきて、スター映画としてやってもおかしくない題材を、敢えてデニス・クエイドが無名と言ったら失礼ですけど(笑)、そーいう人を主役に据えて、いったいこの先何が起きるかわからないということを予測させないキャスティング、そこも見事だったんじゃないか。昔の東映映画でも、角川映画でも、出てきた瞬間に 「 あ!こいつ犯人や! 」 とかばれたりするような図式というのがあるとすれば、これはことごとくそーいうものに、挑戦していった映画だと思う。出てくる人みんなが犯人と言えば犯人だし、みんな活躍するといえば活躍しそうだし・・・市井の人だったり、SP だったり、いろいろと職種も含めて分かれていた部分が、見事に絡んでくる・・・最後に伏線が見事に絡んでくる、このダイナミズムと鳥肌が立つような思い、爽快感があった映画だから、評価は高いと思った。それを1時間半に詰め込んだ挑戦!
普段テレビシリーズでだらだら作ってるスタッフが、わしらも1回映画を作ってみよーや、90分でまとめてみよーやというのも1つの挑戦だったと思う。下手したら2時間あっただろうし、2時間あってもおかしくない内容の映画を、敢えて1時間半にまとめたというところもお見事!拍手喝采ものだった。
第07位 アフタースクール 191pts ・・・ これまた評価が高く、事前情報を入れない、聞きたくない、というタイプの映画であった。口コミが口コミを呼んで・・・言うたら、ま!いつかテレビで見られるや、とか DVD で観たらええやん、ということになることが多い。ところが話題が話題を呼んで劇場に行かずにはおれない。とにかくちょっとでも早く観とかんと・・・そーいう飢餓感を煽る。嬉しいのは、それを観た人がみんなベラベラ喋ったりするんじゃなくて、とにかく面白いから観て!一切言われへんから!という一億総評論家状態というのかな?評論と言うよりも案内人というか・・・「 良かったよ。 」 と言いたくなるタイプの作品だった。それも ACID 映画館ならではの票の集め方だったと思うし、我々が普段できるだけ心がけているところでもあるし・・・。
この映画を観て、皆さんがそーいうルールを守ろうとしているのを見て、あらためて背筋が伸びる思いというか、あらためてこーいう盛り上げ方もあるのだな、そして、もっと幅広く映画を観ていかないといけないなと感じさせる1本でもあった。
第06位 ノーカントリー 200pts ・・・ アカデミー賞を取って、入るときも入らないときもある。この映画が大きく分かれた評価というのが、コーエン兄弟だからという事とバルデムのあの異常なる存在感というか緊張感。この2つが、かなり映画の印象を上へ押しやったかなという感じがする。
蛇に睨まれたカエルの気分というものをはじめて味わったような緊張感。怖かった!お願い、殺さんといて。お願い、やめて。というその緊張感。緊張と緩和で言うと、トミー・リー・ジョーンズ演じる老いたる引退間近の保安官というのが、昔はこんな時代やなかった、こんな殺人はなかった、なんかおかしいと言ってるメッセージと、僕らが最近ニュースを見たり、異常気象でもなんでもいいですけど、環境破壊って言われてるけど、そーいうものを肌で感じて、なんかおかしいよなっていう・・・で、普通に大阪とかに住んでいたら、そんなに間近にわかるはずのないような自然の変化みたいなものすら肌で感じている、そーいうのと共通する部分があるんじゃないかと思う。
アメリカの現状を描いているということもあるんだろうし、なんかみんながあれ?と思っているような事が、この映画に根底としてあるが故に、その1番極端な例として殺し屋が出てきたり、もうなんでそんなアホなことばっかりするねん!というような男が出てきたり・・・というようなベースがきちっとあるからこそ、キワモノのキャラクターがちゃんと印象に残ったんじゃないかなと・・・すべて計算し尽くされたというのは、こーいう事だろうなということを改めて感じた映画だった。
第05位 クライマーズ・ハイ 223pts ・・・ 来ました!なんか音楽だけ聴いてたら、浅間山荘とそんな変わらんなーって気がするんですが、同じ監督やからそれはいいとして、この作品もある意味映画化不可能って言われた部分もあって、扱っている題材が史上最大といわれる日航機の墜落事故。それを追いかける報道陣、マスコミというものを描く。事件そのものを描かざるをえない。避けられない道である。これについては、いろいろな異論があったりだとか、一昔前であれば障害がいっぱいあった。いまでも被害者家族の方もいらっしゃるので、そーいうことに対しては敏感に・・・制作したと言っていた。だけど、それを思い切って作った1つの勇気を讃えたい。
そして、この映画が制作された、公開されたことによって、山崎豊子の 『 沈まぬ太陽 』 が、映画化が決まった。これも、やるやるとずっと10年ぐらい言われていて、全く進まなかった。ついに、あの 『 沈まぬ太陽 』 が映画になるとうことは、個人的に非常に興味のあるところだ。
東西きっての人気俳優であり、実力派である堤真一と堺雅人というこの2人の丁々発止。これはやはり鬼気迫るものがあった。なんとなく嬉しかったのは、さまざまな映画賞が発表になってるが、そこにちゃんと堺雅人という人が入っている、ノミネートだけでも入っていたりする。そこはやっぱり評価として、ちゃんと印象に残ったっていうのが、すごく言われているんだろうなっと。堤真一さんは最近はもう人気俳優みたいな形になっているから、どの映画に出ても評価されていたりするから、ある意味まあまあこんなもんですかという感じかもしれない。でも、僕はやっぱり、この 『 クライマーズ・ハイ 』 における、この2人の演技こそが 『 容疑者X 』 でもなく、他の映画でもなく、評価の対象になったんじゃないかな、なってほしいなーと思っていただけに、『 クライマーズ・ハイ 』 という名前をそーいうところでチラチラと拝見したりすると、ああ、良かったな、ACID で推しても良かったなーという気にはなっている。
第04位 おくりびと 295pts (未見) ・・・ 多分、日本の映画賞を総なめにすると言われている映画。昔からよく事あるごとに ACID 映画館でこの話をしていることですけど、映画の評価っていうのは人それぞれであり、身につまされる映画っていうのは、なんといってもダントツに素晴らしい。自分の経験したことに似ているというか、それをちゃんと理解して描かれているシーンがあったら、どーでもいいような主人公の台詞とか表情でも手の動きでも、なんてよくわかった映画なんだ!?っていうのを発見した瞬間に、自分のなかでの評価がグァーっと上がっていく。
『 おくりびと 』 には悲喜こもごも、いろんな喜怒哀楽のポイント、ポイントがちゃんと描かれていたから、単なる悲しい映画でもなく、単に人の死というものをある種コミカルに描いた伊丹十三の映画というものが引き合いに出されるとすれば、それとは全く違うところで1個1個の人の気持ちというものをよくわかって作られた映画だなーと思う。
モックンはそんな仕事をやったことのないという戸惑いもきちっと描かれていたし、広末涼子という人もなんか感情があるようでないようでっていうのも、1つの人生だと思う。あーいう人がいてもいいと思うし、あーいう夫婦があると思うし、なんかそんな細々したものも含めて、トータルに素晴らしい出来だったな。やっぱり滝田洋二郎という人は、そーいう意味でも切り取りが巧いんですよね、昔から。
配給会社からすれば、あのタイミングでモントリオールで賞を取れたことは、劇場にお客さんが来るいい呼び水になって、松竹としても万々歳なのでは?と思う。もう東宝の一人勝ちをなんとか食い止めたのが、この作品 『 おくりびと 』 だった。
第03位 ガチ☆ボーイ 342pts ・・・ リスナーからの便りの熱さはすごかった。文量でいうと、もしかしたら No.1 かもしれない。
佐藤隆太さんが、非情に熱心に、それこそ草の根運動のようにチケットを手売りするような勢いで、はじめての主演作品だったが、その想いはそんなに届かなかった。実際、劇場でも成功とは言えなかった。かといって、DVD で盛り上がっているかといえば、いまじわじわと来てはいるが、爆発的にいってないというところでもある。まだまだ隠れた名作。知られざる名作の域なんですけど・・・その後、佐藤隆太さんは 『 ROOKIES 』 っていうのがあって、今度、その劇場版。これ間違いなくヒットすると言われている・・・。これ、順番が逆だったら、良かったなーという気持ちもある。遡って観てくれる人もいるかもしれないので、もしかしたら来年の2009年から2010年にかけて、爆発的に盛り上がるかもしれない(笑)
第02位 クローバーフィールド/HAKAISYA 364pts ・・・ 来ましたね。やっぱり、印象にすごい残った。概ね怪獣映画ファンには大好評だったし、心配されていた映像酔いの部分に関しても評価が大きく分かれたところなんですけど・・・。
映画愛に溢れた映画だなと思った。つまり、怪獣映画っていっぱい観てきたけど、いやホントはこーなんや、ホントは怖いのはこーやねんっていうような持論とか、そーいうものがちゃんと展開されている。J・J・エイブラムス(クローバーフィールドではプロデューサー)が今度作る 『 スタートレック 』 の予告編なんかを観ても、スタートレックファンを唸らせるようなええカットを撮ってる。それでいて、全く新しい感じがする。これまでのもっちゃりしたスタートレックではなく、全く新しいものを作ってるねんけども、俺の好きなトレッキー的な見方で言うと、こーいう絵やねんみたいな・・・見せたいねん!みたいなんがキチッとできている。ある意味、映像という手段を使った映画評論といったらおかしいが、タランティーノが映画のなかの台詞で映画評論を展開したのと違う形だけど、J・J・エイブラムスは映像を使って、映画を評論しているんじゃないかな?そーいう深みすら感じる映画だったんじゃないかなと思います。
いろいろと心配されていた映像酔いをはねのけて、ACID ベスト10において 364pts を稼いで 2位を獲得。
第01位 ダークナイト 689pts ・・・ 2位との差がすごい!ダブルスコア!ダントツ第1位は、『 ダークナイト 』 。しびれました!というお便りの嵐!2位をここまで引き離しての1位というのは、意外だった。日本で言うても当たらなかった。ヒットはしたけど、アメリカほどの勢いもなきゃ(アメリカはちょっと異常なぐらいすごい数字だった)、だからいま必死でDVD、Blu-ray を売ろうという戦略になっている。
リスナーの皆さんの一言コメントも含めて総括すれば、ものすごい映画を見せられたっていう印象というのかな。例えば、感動しましたとか、わくわくしましたとか、興奮しましたじゃない。なにか途轍もないものを観た!というこの衝撃というか感覚は、珍しい。『 タイタニック 』 に追いつくか追いつかないかと言われたけど、『 タイタニック 』 はそーいう意味ではわかりやすい。感動しましたとか、スケールの大きさに吃驚しました!とか、すごいのを観たという・・・でも、この映画に関しては、明確に感動とか興奮とかっていうそんな言葉じゃない、とんでもない魔物に出会いましたというような圧倒的な存在感というか・・・。クリストファー・ノーランという人は 『 メメント 』 という作品で緻密な映像を見せたという、あの頃の丁寧さみたいなものもあるが故に派手なシーンを撮っているんだけれども、全くだれさせないし、安心させない。常に危うさを保ちながら、次から次へとストーリーを展開させていく、そーいう演出力みたいなものも大きかったと思う。
最初は、ヒース・レジャーに対する、いわば哀悼の意を表した形で、盛り上がるだけかなと思われた部分もあったんだけど、それだけじゃない!それだけじゃないなにか得体の知れないものがこの映画に存在していた。それが故に、『 ダークナイト 』 、堂々たる1位を取ったんじゃないかなと思う。
11位以下はいうと・・・。
11位 パコと魔法の絵本 95pts
12位 ザ・マジックアワー 92pts
13位 つぐない 87pts
14位 相棒 -劇場版- 79pts
15位 アイアンマン 78pts
16位 アメリカン・ギャングスター 73pts
17位 ハッピーフライト 70pts
18位 レッドクリフ Part I 70pts
19位 チーム・バチスタの栄光 64pts
20位 闇の子供たち 60pts
こー見ても、邦画の強さを感じずにはいられない。ハッピーフライトだとかレッドクリフなどの割と直近で、ご覧になられたっていう方も投票しているということ、そーいう作品が入ってきてこその1年トータルだなーと思うし、思えばヒットした作品が入ってくるのは当たり前なんですけど、映画の入れ替わりのサイクルの早さを感じる気もする。たとえば、この1月2月にどんな映画が公開されていたっけ?と考えたときに記憶にあまり残っていない。ポンポンポンと次から次へといろんな映画が出てきている。たまに当たるとロングランみたいな感じで、印象に残っている。
ワースト1位 崖の上のポニョ
ワースト2位 少林少女
ワースト3位 インディ・ジョーンズ クリスタル・スカルの王国
ワースト1位2位は接戦だった。驚いたのは、オープニングで曲もかけ、2008年を象徴する映画だということで、大々的に声を大にして訴え続けてきた 『 インディ・ジョーンズ 』 が、ベスト20にかすりもしていないというこの衝撃(笑) どーなってるんや!? ワーストに入るのはヒットしたし期待もあったから、わかる。この壮絶な結果、誰が予測したでしょうか。
そーいう意味では、映画の入れ替わりも早いと言ったし、人の入れ替わりも早いんだなと感じた。ニューパワーが1、2、3位を独占。そのニューパワーの台頭というものが顕著になってきて、もう年寄りは去って行け!という 『 NO COUNTRY FOR OLD MEN 』 みたいな1年だった(笑)
注:この記事は、2008年12月29日の アシッド映画館( ABC 1008kHz ) の放送内容を勝手に要約して書き起こしたものです。